大阪地方裁判所 平成2年(ワ)4288号 判決 1991年9月30日
原告
小林敏弘
右訴訟代理人弁護士
横山昭二
被告
和商総合ファイナンス株式会社
右代表者代表取締役
松原炳吾
被告
松原炳吾
被告ら訴訟代理人弁護士
福本基次
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告和商ファイナンス株式会社(以下、被告会社という。)が、原告に対し、昭和六三年一一月二二日なした解雇が無効であることを確認する。
二 被告会社は、原告に対し、昭和六三年一二月一日から毎月末日限り一か月金四八万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。
三 被告松原炳吾(以下被告松原という。)は、原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告に対し、各自金六〇万円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は被告らの負担とする。
六 仮執行の宣言
第二事案の概要及び争点
一 事案の概要
原告は、被告会社に対し、被告会社が原告に対し昭和六三年一一月二二日になした解雇の意思表示は解雇権を濫用したものであるから無効であるとして、未払給料の支払を求め、かつ、被告松原に対し、右解雇及び原告名義での株購入等の行為が不正行為となるとして慰謝料の支払を求める。
1 被告会社は、金融等を業とする株式会社であり、被告松原は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものである(争いがない)。
2 原告は、昭和六三年一一月当時、被告会社大阪支店の営業部長であり、月額金四八万五〇〇〇円の給料を得ていた(<証拠略>、原告本人)。
3 原告は、被告会社宛てに「一身上の都合により退職願い申し上げます。昭和六三年一一月二二日(住所略)小林敏弘」と記載した退職願い(以下、本件退職願という。)と題する書面を作成し、現在被告会社が右書面を所持している(<証拠略>)。
4 被告松原は、昭和六三年九月ころ、原告を借主、被告松原を保証人として、浪速証券金融から金一億九〇〇〇万円を借入れ、右金員を使って、原告名義でNTT株一一九株を購入した(原告本人)。
二 争点
1 被告会社に対する請求に関して
(1) 原、被告間の雇用契約は、昭和六三年一一月二二日、合意解約により終了したと認められるか。
(2) (1)が認められないとして、被告会社は、昭和六三年一一月二二日原告を解雇したと認められるか。右解雇は解雇権を濫用したものとして無効か。
2 被告松原に対する請求に関して
(1) 1(2)が認められるとして、被告松原は、被告会社が行った解雇につき個人として不法行為責任を負うか。
(2) 一4で認定した事実は、被告松原の原告に対する不法行為となるか。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 原告が本件退職願(<証拠略>)を提出し、被告会社を退職した経緯につき以下の事実が認められる(<証拠・人証略>及び被告代表者本人)。
被告会社大阪本部長であった工藤浩吉(以下、工藤という)は、昭和六三年一一月二一日、原告が被告会社宣伝企画室内の女子社員のわき机(共用物)に現金八五万円及び得意先名を書いたメモを入れていたのを発見した。工藤は、個人の金銭を会社に持ち込みしかもこれを他人の机に放置するなどということは金融業を営み金銭の取扱に細心の注意を払うべき被告会社の営業部長としてあるまじき行為であるとして、原告を叱責し、同時にこれを東京本社の代表者である被告松原に報告した。被告松原は、工藤に対し、右金銭につき原告から釈明を求め、徹底的に事実を究明すべきことを指示し、これを受けた工藤は原告を糺問した。結局、右金銭は原告個人の所有物であることが明らかになりその日のうちに原告に返還された。
原告は、疑いをかけられたことに立腹するとともに、自分が会社からよく思われていないと感じ、被告会社を退社することを決意し、翌二三日午前中出社して、工藤に対し本件退職願を提出した。
被告松原は、工藤から本件退職願が提出されたとの連絡を受け、原告の真意を確認し併せて原告退社後の大阪本社の営業形態等を打ち合わせるため永田晴久常務(以下、永田という)を伴って大阪本社に向かい、夕方到着して原告に会った。原告は、被告松原に対し、「会社は自分に冷たい。自分を疑っている。」等を言い立て、業務を引き継ぐ段取もすることなく退社し、以後出社しなくなった。
その後、被告会社では、原告に退職金を支払うことになり、会計事務所と相談のうえ、その額を金一〇二万六〇〇〇円と決定し、同年一一月二八日原告を被告会社に呼び、工藤が、雇用保険の離職表等の手続を取るのと併せて退職金を原告に手渡した。原告は、右額が少なすぎるとしてこれを突き返した。
同日以後、原告は、何度か被告会社に電話してきたが、一二月中旬、原告から永田に対し、退職金の件で相談したいのでホテル京阪に来て欲しいとの連絡があり、両名は、同ホテルで会談した。ここで、永田は、原告に対し、退職金についての希望額を申し出るよう促したが、原告は結局これを提示せず、会談は物別れに終わった。
以上の事実が認められる。
2 もっとも、原告は、昭和六三年一一月二二日、被告松原が原告を怒鳴りつけ突然解雇したと主張し、本件退職願を作成した経過については、その本人尋問において、「昭和六三年一二月中旬ころ、永田から退職金八〇〇万円を渡すからホテル京阪に来て欲しいとの連絡を受け出向いた。同ホテルのロビーで八〇〇万円を渡すのと引き換えに退職願を提出するよう言われたので、本件退職願を書き永田に渡した。ところが、その時永田は暴力団風の男二人を連れてきており、その二人が八〇〇万円の内の二〇〇万円だけを残して、これで辛抱しろと脅迫した。自分がだまっていると、その二〇〇万円をも持ち去ってしまった。本件退職願はその時永田に渡したものである。」との前記認定に反する供述をしている。
しかし、原告が、右時点で解雇の無効を主張していたのならともかく、単に退職金額に不満を唱えていたにすぎない(原告)ことからすると、被告会社が右手段を弄してまで本件退職願を提出させたとは考えられないこと及び1で掲記した各証拠に照らすと、原告の右供述は到底措信できない。
3 以上によると、原、被告間の雇用契約は、昭和六三年一一月二二日、合意解約により終了したものと認めるのが相当である。
4 したがって、原告の被告会社に対する請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
二 争点2について
1 (1)について
前判示のとおり、原、被告間の雇用契約は合意解約により終了したものと認められる。したがって、被告会社が原告を解雇したことを前提とする被告松原に対する請求は理由がない。
2 (2)について
原告は、被告松原が、昭和六三年九月ころ、原告を借主、被告松原を保証人として浪速証券金融から金一億九〇〇〇万円を借入れ、右金員を使って、原告名義でNTT株一一九株を購入することを承諾していた(原告及び被告代表者各本人)と認められる。
したがって、右被告松原の行為が原告に対し不法行為を構成しないことは明らかである。
第四結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 野々上友之 裁判官 長谷部幸弥)